死ぬまでに読みたい絵本

「日常に絵本を」をテーマに、大人も楽しめる絵本をご紹介するブログです。

ウェン王子とトラ

『ウェン王子とトラ』を読みました。

 

ウェン王子とトラ

ウェン王子とトラ

 

 

あらすじ

 

昔、森の奥に、トラのお母さんが住んでいました。

 

トラの子どもたちは、人間の猟師に殺されてしまい、トラは人間を憎むようになりました。

 

ある晩、トラは村を襲います。

 

それでも、トラの怒りはおさまるどころか、さらに激しくなりました。

 

知らせを聞いた王さまは、兵を集め、占い師にトラ狩りがうまくいくかどうか尋ねます。

 

占い師は、トラの怒りをしずめるために、ウェン王子をトラに差し出すように言いますが……。

 

トラとウェン王子の絆が感動的に描かれた一冊です。

 

見どころ

 

今回の見どころは、トラの母性と王子の優しい心です。

 

深い森の奥に、トラのお母さんが住んでいます。

 

トラは、悲しそうな鳴き声をあげます。

 

なぜなら、子どもたちが、人間の猟師に殺されてしまったからです。

 

トラは、子どもたちを助けてやることができませんでした。

 

その日から、トラは人間が憎くて、村の近くをうろつくようになりました。

 

ある晩、トラはついに村を襲います。

 

それでも、トラの怒りはおさまらず、激しさを増します。

 

こうして夜になると、村人たちの泣き叫ぶ声が聞こえるようになります。

 

知らせを聞いた王さまは、兵を集めます。

 

そして、占い師のおばあさんに、トラ狩りがうまくいくかどうか尋ねます。

 

おばあさんは、トラの怒りをしずめるために、ウェン王子をトラに差し出すように言います。

 

王さまが怒ると、おばあさんは、王子さまが危ない目にあうことは決してないと言います。

 

王さまとお后さまは、胸が張り裂けそうです。

 

しかし、ウェン王子は怖がっていません。

 

日が昇ると、王さまはウェン王子を連れて、大きな森へ向かいます。

 

そして、ウェン王子は、森の奥へと入っていきます。

 

王子は、長いこと歩き続け、やがて疲れて眠ってしまいます。

 

しばらくすると、トラがやってきて、自分の子どものように、ウェンをくわえます。

 

トラは、優しくウェンを寝かせ、寄り添ってあたためてやります。

 

やがてトラは、ウェンを山の向こうへと、連れていきます。

 

暗い穴を抜けると、そこにはトラの隠れ家があります。

 

ウェンは、隠れ家でトラと暮らすようになります。

 

ある日、トラの昼寝の最中に、ウェンがトラの傷跡に手を伸ばすと、トラは飛び起きます。

 

また、怒りが湧き上がってきたのです。

 

いまにもウェンに噛みつこうとしたそのとき、トラは大きく見開いたウェンの目に気付きます。

 

子どものトラにそっくりの目です。

 

その途端、トラの心に優しさが蘇ります。

 

それからは、トラは決して、村を襲わなくなりました。

 

その代わりに、朝から晩まで、ウェンの世話をして、トラの子どもが覚えることを、全て教え込みます。

 

ときは流れ、ウェンはたくましい少年になります。

 

一方、お城の王さまとお后さまは、息子を失った悲しみに沈んでいます。

 

とうとう、王さまは耐え切れず、王子を取り戻すために、森に兵を出します。

 

兵士たちは森の奥に入り、火を放ち、トラは追い詰められます。

 

ウェンは、トラを守ろうとして、前に立ちはだかります。

 

そのとき、兵の後ろから、お后さまがやってきて、息子のもとに駆け寄ります。

 

ウェンもすぐに、お母さんだとわかります。

 

ウェンはトラに、お別れとまた会いにくる約束をします。

 

トラはゆっくりウェンに背を向け、森の中へ消えていきます。

 

それから、ウェンは毎年、トラに会いにいきます。

 

そして、ある日ウェンは、自分の息子を連れて、トラに会いにいき、息子を預けます。

 

ウェンは、立派な王子になれるよう、トラとして学ばねばならないことを、教えてやってほしいと言います。

 

この絵本では、トラのお母さんと王子の交流が描かれています。

 

トラのお母さんは、以前自分の子どもを人間に殺されてから、怒りがおさまらず、村を襲うようになります。

 

しかし、ウェン王子と出会い、少しずつ母性や優しさを、取り戻します。

 

また、そんなトラのお母さんに育てられたウェンは、強くて優しい少年に成長します。

 

やがて、ウェンは立派な王さまになります。

 

トラの母性やウェン王子の優しい心が感動的に描かれた一冊です。

 

印象的なことば

 

ぼくには二人のおかあさんがいる。

森のおかあさんだったおまえと、城のおかあさんと。

 

 

ウェンの言葉です。

 

トラとの別れのときに、ウェンはこう言います。

 

ウェンは、トラのことを尊敬していて、本当に自分のお母さんだと思っています。

 

感想

 

トラとウェン王子の、感動的な交流が描かれた絵本です。

 

まず、迫力のある絵本の表紙に、興味を惹かれました。

 

読む前から、一体どんな絵本なのだろうと、期待が高まります。

 

読んでみると、大迫力のイラストと、感動的なストーリーで、心を揺さぶられました。

 

恐らく中国が舞台の絵本ですが、どの国の人が読んでも感動するような、普遍的な物語です。

 

この絵本は、2005年ドイツ児童図書賞を受賞しています。

 

絵本のイラストのインパクトや大型本ということで、手に取るのをためらう方もいるかもしれませんが、是非勇気を持って、手に取っていただきたいです。

 

そこには、今まで見たことのない絵本の世界が広がっているはずです。

 

大人と子どもの両方が楽しめる作品です。

 

 

ウェン王子とトラ

ウェン王子とトラ

 

 

 

 

 

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黒グルミのからのなかに

『黒グルミのからのなかに』を読みました。

 

 

黒グルミのからのなかに

黒グルミのからのなかに

 

 

あらすじ

 

ポールという男の子が、漁師村の近くの小さな家に、お母さんとふたりで暮らしています。

 

ある朝、ポールは、胸騒ぎを感じます。

 

なぜなら、いつも台所に立っているお母さんが、見えなかったからです。

 

ポールは外に出て、お母さんを探し回りますが、見つかりません。

 

そして、お母さんの部屋を見に行くと、お母さんがベッドに横たわっていて……。

 

生と死について考えさせられる一冊です。

 

見どころ

 

今回の見どころは、生と死の関係です。

 

ポールは、漁師村の近くの小さな家に、お母さんとふたりで暮らしています。

 

ある朝、ポールは胸騒ぎを覚えます。

 

いつもなら、とっくに台所に立っているお母さんが、見えなかったからです。

 

ポールがあちこち探しますが、見つかりません。

 

そこで、あっと気づいて、お母さんの部屋を見に行きます。

 

すると、お母さんはベッドに横たわり、目を閉じています。

 

ポールが声をかけると、お母さんは、「わたしは、もうすぐ死ぬわ」と言います。

 

ポールは、驚きます。

 

お母さんは、死神がやってくると言います。

 

ポールは、お母さんのために薬を買いに、漁師村へと駆け出します。

 

ポールが浜辺に沿って歩いて行くと、はるか向こうに人影が見えます。

 

その黒マントの人は、ポールのそばまでやってきて、この辺りにある小さな家のことを尋ねます。

 

そのとき、その黒いマントとフードがめくれ、恐ろしい老婆の顔と大きなカマが見えます。

 

なんと、その老婆は死神だったのです。

 

そうとわかると、ポールは死神に飛びかかり、戦います。

 

ポールは、カマの柄でたたいて小さくなった死神を、落ちていた黒グルミのからの奥に押し込み、小枝で穴を塞ぎ、海へ放り投げます。

 

そして、ポールは家に戻り、刃のこぼれたカマを隠します。

 

台所に行くと、お母さんがいます。

 

お母さんは、オムレツを作るところです。

 

ポールは、まさかと目を疑いますが、どうやら死神は何もできなくなったようです。

 

ポールは、お母さんに頼まれて、卵を割ろうとしますが、何故か割れません。

 

さらに、庭の畑で野菜を引き抜こうとしても、抜けません。

 

お母さんは、ポールに漁師村へ行って、魚を買ってくるように言います。

 

ポールが再び漁師村へ行くと、広場に人だかりができています。

 

漁師や肉屋が、文句を言って、怒っています。

 

なんと、ポールがしたことによって、全てのものが死ななくなったのです。

 

家に帰ったポールは、仕方なく、お母さんに「何も買えなかった」と言います。

 

お母さんは驚いて、わけを尋ねます。

 

ポールが、死神と戦ったことや黒グルミのからに閉じ込めたことを話すと、お母さんはたいそう驚き、悲しみます。

 

お母さんはポールに、自然の流れを戻すように言います。

 

ポールは、お母さんのためなら、どんなことでもするつもりなので、お母さんに従います。

 

あくる朝はやく、ポールは、浜にやってきます。

 

ポールは、空のカモメに尋ねますが、黒グルミには気付かなかったと言います。

 

ポールは、黒グルミを探して、何時間も浜辺を歩きますが、夜になっても見つからず、砂の上で眠ってしまいます。

 

明け方、ポールはカニに足をつままれて、目を覚まします。

 

ポールは、カニに黒グルミのことを尋ねると、カニは物知りオオハタのところに連れて行ってくれると言います。

 

ポールがカニと一緒に、海に潜って行くと、オオハタがいます。

 

オオハタは、魚たちに黒グルミを探すように言います。

 

すると、一匹のカニが、ポールが投げたその浜で、黒グルミが見つかったと言います。

 

ポールは、魚の群れとともに、浜へと急ぎます。

 

黒グルミは、岩の間に挟まっていました。

 

ポールは、黒グルミの穴に挿した小枝を引き抜きます。

 

すると、死神が小さな頭を覗かせます。

 

ポールは、今にも泣き出しそうです。

 

なぜなら、お母さんのことを考えていたからです。

 

自由の身になれば、死神は再びお母さんを連れて行くでしょう。

 

ポールはためらいながらも、覚悟を決め、殻を握りつぶします。

 

死神は、元の大きさに戻ります。

 

ポールは、死神を家に連れて行き、壊れたカマを返します。

 

ポールは、お母さんのことを思うと、胸が張り裂けそうです。

 

すると、死神が自分を自由にしてくれたお返しに、お母さんを連れて行くのは、今はやめにしようと言います。

 

死神が立ち去り、ポールは心からホッとします。

 

その日から、ポールとお母さんは、長いこと幸せに暮らします。

 

死神が、再びやってきたときには、お母さんは100歳を超えるおばあさんになっていました。

 

ポールは、穏やかな気持ちで、お母さんを送り出します。

 

死があってこそ、生があることを、ポールはわかっていたからです。

 

この絵本では、死神を黒グルミに閉じ込めたことによって、引き起こされることが描かれています。

 

それは、全てのものが、死ななくなるということです。

 

そうなると、自然の流れが止まってしまい、不具合が出てきてしまいます。

 

そのことを知ったポールは、黒グルミを探し回り、死神を元に戻します。

 

しかし、ポールはお母さんが死神に連れて行かれることを思うと、胸が張り裂けそうになります。

 

しかし、ポールの思いが通じたのか、死神のはからいによって、お母さんは一時的に救われます。

 

その後、ポールは長いときをお母さんと幸せに過ごします。

 

その過程で、死があってこそ、生があることを改めて学んだのでしょう。

 

最後に、ポールは穏やかな気持ちで、お母さんを送り出します。

 

この絵本の中心にあるのは、生と死の関係です。

 

生と死は、関係のないもの同士ではなく、どちらもあるからこそ、成り立つ関係なのです。

 

命の尊さや死の必要性が、すんなりと入ってくる、不思議な絵本です。

 

大人が読んでも、学ぶことの多い一冊です。

 

印象的なことば

 

ポールは、おだやかな気もちで、かあさんをおくりだしました。

なぜって、「死」があってこそ、「生」はあるのですから。

ポールには、とっくにそのことがわかっていました。

 

 

ポールは、死があるから生もあることを、死神との出会いによって知ります。

 

そのおかげで、お母さんを穏やかに送り出すことができました。

 

感想

 

死神から、お母さんを助けようとする少年の物語です。

 

雰囲気のあるイラストや、風変わりな物語の世界に、どんどん引き込まれました。

 

この絵本を読んで、改めて生と死は共存しているのだと感じました。

 

生と死について、考えさせられる一冊です。

 

大人がじっくり読むのにオススメです。

 

 

黒グルミのからのなかに

黒グルミのからのなかに

 

 

 

 

 

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ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸

『ここが家だ ベン・シャーン第五福竜丸』を読みました。

 

ここが家だ―ベン・シャーンの第五福竜丸

ここが家だ―ベン・シャーンの第五福竜丸

 

 

あらすじ

 

舞台は、日本の焼津です。

 

1954年1月22日、第五福竜丸に23人の漁師が乗って、焼津の港から海に出ます。

 

家族は手を振って、船を見送ります。

 

第五福竜丸は、日本から4千キロも越えて、ミッドウェーという島を通り過ぎます。

 

しかし、ミッドウェーの海では、マグロが見つかりません。

 

そして、漁師たちは、マーシャル諸島を目指すことになりますが……。

 

第五福竜丸を襲ったできごとが描かれた一冊です。

 

見どころ

 

今回の見どころは、第五福竜丸に起こった事実と平和の尊さです。

 

舞台は、日本の焼津。

 

1954年1月22日、第五福竜丸という立派な船に、23人の漁師が乗り、海に出ます。

 

家族は、手を振って船を見送ります。

 

第五福竜丸は、日本から4千キロも越えて、ミッドウェーという島を通り過ぎます。

 

2月7日に、漁師たちは、マグロの漁を始めます。

 

しかし、ミッドウェーの海では、マグロが見つかりません。

 

そこで、もっと南にあるマーシャル諸島を目指すことにします。

 

そして、2月27日に、ついに第五福竜丸は、マーシャル諸島の海でマグロの群れに出会います。

 

漁師たちは、寝る間もなく、作業をします。

 

そして、3月1日の夜明け前、いきなり西の空が真っ赤に燃えます。

 

その後、爆発音が響き、空から白いものが降ってきます。

 

みんなの上に、何時間も灰は降り注ぎます。

 

それは、アメリカが行った水爆実験でした。

 

第五福竜丸は、まっすぐ焼津へ帰ることにします。

 

その2週間の間、漁師たちは、様々な身体の異変に気付きます。

 

あの灰には、放射能がたっぷりと入っていたのです。

 

しかし、漁師たちは、無線で連絡をしません。

 

なぜなら、水爆実験という秘密を見てしまったため、何をされるかわからないからです。

 

3月14日に、朝早く焼津の港に、第五福竜丸が着くと、23人の漁師たちは病院へ向かいます。

 

医者は、みんなの病気を、放射能病と呼びます。

 

みんなの身体に潜り込んだ放射能が、じりじりと身体を壊していきます。

 

3月16日の朝、新聞の一面に、水爆実験のことが載ります。

 

科学者たちが調べようと、焼津にやってきます。

 

第五福竜丸の漁師たちは、海で見たことを語ります。

 

第五福竜丸の無線長で、一番の先輩である久保山さんは、奥さんとかわいい娘が3人いました。

 

しかし、東京の病院に入った久保山さんは、8月に放射能病が急に悪くなります。

 

医者は久保山さんを助けようとし、久保山さんは生きようとします。

 

しかし、9月23日に久保山さんは亡くなります。

 

その後、久保山さんのことを忘れないと、人々は言います。

 

けれど、忘れるのをじっと待っている人たちもいます。

 

しかし、畑や波、人々も、水爆や放射能のことを決して忘れません。

 

この絵本では、実際に第五福竜丸に起こったできごとや水爆実験のことが描かれています。

 

思わず目をそらしたくなりますが、直視しなければならない歴史があります。

 

そんな歴史が、ベン・シャーンの絵とアーサー・ビナードの文章で表現されています。

 

決して読みやすい絵本ではありませんが、平和の尊さを感じることのできる名作です。

 

印象的なことば

 

波もうちよせておぼえている。

ひとびともわすれやしない。

 

 

最後のページの言葉です。

 

自然や人々は、放射能のことを忘れません。

 

私たちは、負の歴史を忘れません。

 

忘れてはならないのです。

 

感想

 

第五福竜丸を襲ったできごとが描かれた絵本です。

 

画家のベン・シャーンが取り組んだ、第五福竜丸事件の連作をもとに作られた絵本だそうです。

 

この絵本で、初めて知ることも多く、勉強になりました。

 

この絵本を読んで、平和の尊さを改めて感じました。

 

決して読みやすいとは言えませんが、多くの人に読んでほしい絵本です。

 

子どもがひとりで読むには難しいと思うので、大人が子どもに読んであげてほしいです。

 

 

ここが家だ―ベン・シャーンの第五福竜丸

ここが家だ―ベン・シャーンの第五福竜丸

 

 

 

 

 

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アンジェロ

『アンジェロ』を読みました。

 

アンジェロ

アンジェロ

 

 

あらすじ

 

アンジェロは、壁塗り職人です。

 

ある日、古い教会で仕事をしていると、息も絶え絶えのハトを見つけます。

 

アンジェロは、文句を言いながらも、ハトの手当に打ち込むようになります。

 

やがて、ハトは元気になり、飛び立って行きますが……。

 

アンジェロとハトのシルビアが織りなす、心温まる物語です。

 

見どころ

 

今回の見どころは、仕事への情熱と動物への思いやりです。

 

アンジェロは、壁塗り職人です。

 

ある日、仕事をしていると、息も絶え絶えのハトを見つけます。

 

アンジェロは、ハトをほうきの柄でつつきますが、ハトは動きません。

 

アンジェロは、仕方なくそのままにして、仕事を続けます。

 

仕事を終えたアンジェロは、ハトを帽子に入れて家に向かいます。

 

途中でハトを捨てていくつもりでしたが、町中が物騒で、家に着いたときも、ハトは帽子の中にいます。

 

アンジェロは、ハトをテラスにおこうとしますが、近くのねこに気付き、慌ててハトを部屋に入れます。

 

結局、ブツブツ言いながらも、アンジェロはハトのベッドを作ってやります。

 

いつの間にかアンジェロは、時間を惜しまずに、ハトの手当に打ち込むようになります。

 

アンジェロは、ハトが元気になると、仕事場に連れて行くようになります。

 

また、休みの日には、きれいな空気を吸わせてやろうと、ハトと車で田舎にドライブをします。

 

そして、ハトはすっかり元気になります。

 

ある日の朝、アンジェロが教会に出かけたあと、ハトはどこかに飛び立ちます。

 

アンジェロのハトは、広場で大道芸をして、人気者になり始めます。

 

ハトは、時々アンジェロを見に行きます。

 

そして、何ヶ月かが経ち、アンジェロの仕事ぶりが遅くなっていることに気付きます。

 

ある日の午後、ハトはアンジェロにあいさつに行きます。

 

アンジェロは、ハトに本音を漏らします。

 

その日ハトは、最後までそばにいて、アンジェロを励まします。

 

その日から、ハトは毎日やってきて、アンジェロをサポートします。

 

アンジェロは、自分の見事な仕事ぶりを自慢します。

 

昼休みには、仲間のハトたちもやってきて、ショーをして見せます。

 

しかし、ハトに助けてもらっても、どんどん時間が足りなくなり、昼休みにも働き続けるようになります。

 

ある土曜日のこと、ドライブの途中で、アンジェロはハトにようやく名前をつけてやります。

 

ハトの名前は、シルビアになります。

 

月日は流れても、アンジェロとシルビアは、いつも一緒にいます。

 

冬がやってきて、アンジェロは寒すぎて、スタッコをこねることができない日もあります。

 

2年以上にもわたるつらい仕事の末、ようやく終わりが見えてきます。

 

しかし、冬が間近に迫り、アンジェロの動きはますます遅くなります。

 

冬がくる前に仕事を終えようと、アンジェロは大好きな週末のドライブも取りやめにします。

 

11月のある暖かい日、アンジェロはついに仕事を仕上げます。

 

それは、教会正面中央の天使の像でした。

 

しかし、アンジェロは喜ぶどころか、とても不安そうです。

 

シルビアは、夕食のときになんとか元気付けようとしますが、アンジェロはぼんやりと皿を見つめるばかり。

 

そして、とうとうアンジェロが口を開きます。

 

アンジェロは、自分がいなくなったら、シルビアがどこに行くのか心配だと言います。

 

その後、アンジェロは突然叫び、出かけていきます。

 

アンジェロが家に戻ってきたとき、ちょうど朝日が昇ります。

 

疲れ切った様子のアンジェロですが、口元には何ヶ月ぶりかの微笑みがあります。

 

その日の午後、作業員たちが、教会の足場を取り外します。

 

しかし、その日アンジェロは、姿を見せませんでした。

 

誰もが、何かよくないことが起こったに違いないと思います。

 

そして、アンジェロは、ベッドの上で発見されます。

 

周りには、木の枝と鳥の羽が落ちています。

 

アンジェロが運び込まれた教会には、新しい部分が一カ所あります。

 

なんと、天使たちの足元に、見事な鳥の巣ができていたのです。

 

それは、新しいシルビアの家でした。

 

それから長い年月が過ぎ、教会が再び修復されることになります。

 

若い壁塗り職人がふたり、アンジェロの作った巣のもとにやってきます。

 

巣は見事なままで、巣の底には羽と麦わらが残っています。

 

どちらの職人も、手を触れることはありませんでした。

 

この絵本では、アンジェロの仕事に対する情熱と動物への思いやりが描かれています。

 

アンジェロは、亡くなるまで、誇りと責任感を持って、仕事をやり遂げました。

 

段々と体力が衰え、仕事のペースも遅くなりますが、アンジェロは決して仕事を投げ出したりしません。

 

そこには、壁塗り職人の仕事に対する情熱が溢れています。

 

また、仕事の最中に出会ったハトのシルビアには、文句を言いながらも手当をしたり、動物に対して優しく接しています。

 

最後には、仕事や自分のことよりも、シルビアのこれから先のことを心配して、シルビアに新しい家を作ってやります。

 

その後、アンジェロは、静かに息を引き取ります。

 

アンジェロの素晴らしい人柄が描かれた、感動の絵本です。

 

印象的なことば

 

いまではここがおまえの家だ。だがな、人間はいつまでも生きることはできんのだ。おれがいなくなったら、おまえはいったい、どこにいくんだい?おまえのことが心配だよ

 

 

アンジェロの言葉です。

 

アンジェロは、ハトのシルビアの今後のことを心配しています。

 

もう、自分が長くないことを知っているからです。

 

そして、実際にシルビアのために、新しい家を作ってやります。

 

アンジェロが、心からシルビアのことを思っていることが、伝わってくる言葉です。

 

感想

 

アンジェロとハトのシルビアの交流が描かれた、心温まる一冊です。

 

アンジェロの仕事への情熱や、ハトへの思いやりは、素晴らしいものです。

 

アンジェロのような行動は、心掛けたくても、なかなかできるものではありません。

 

だからこそ、アンジェロの人生は、こんなにも読者を感動させるのだと思います。

 

アンジェロは、いつも見返りを求めずに、相手に与えることを考えていたのでしょう。

 

ここまでの境地に至るのは、なかなか至難の業ですが、少しでも見習いたいものです。

 

特に大人に読んでほしい一冊です。

 

 

アンジェロ

アンジェロ

 

 

 

 

 

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ホームランを打ったことのない君に

『ホームランを打ったことのない君に』を読みました。

 

ホームランを打ったことのない君に

ホームランを打ったことのない君に

 

 

あらすじ

 

ルイは、野球少年です。

 

ルイは、試合でホームランを狙いますが、負けてしまいます。

 

夕方、お母さんに頼まれて、ルイがコンビニまでおつかいに行くと、仙ちゃんと会い……。

 

諦めないことの大切さが描かれた一冊です。

 

見どころ

 

今回の見どころは、諦めない力です。

 

ルイは、野球少年です。

 

ルイは、試合でホームランを打とうと張り切りますが、結果は負けてしまいます。

 

夕方、お母さんに頼まれて、マーガリンを買いにコンビニへ行くと、仙ちゃんに会います。

 

仙ちゃんは、近所のお兄さんです。

 

仙ちゃんは、今朝の試合を見ていたと言います。

 

帰り道、ふたりは今朝の試合の話をします。

 

ホームランを打ちたかったルイに対して、いきなりは無理だと、仙ちゃんが言います。

 

途中の公園で、仙ちゃんはホームランについて語り出します。

 

さすがに詳しい仙ちゃんですが、仙ちゃんでも試合では、ホームランを打ったことがないと言います。

 

仙ちゃんは、先週スタジアムで見た、象島のホームランの話をします。

 

仙ちゃんは、象島は神に選ばれた人だと言います。

 

それを聞いたルイは、弱気になります。

 

しかし、仙ちゃんはルイを励まします。

 

ルイは家に帰る途中、公園でバッティングフォームを繰り返す仙ちゃんを見つめます。

 

家に帰り、ルイがお母さんと話していると、意外な事実を聞かされます。

 

なんと、仙ちゃんは、去年の今頃に出前をしていて、交通事故に巻き込まれて、重傷を負ったそうです。

 

その後、医者から歩けなくなるかもしれないと言われながらも、病院で頑張ってリハビリして、帰ってきたそうです。

 

そんなことがあったけど、仙ちゃんは、今朝の試合を見に来てくれたのです。

 

ルイは、いつかホームランを打つことを、心に決めます。

 

その夜、ルイは、仙ちゃんがホームランを打つ夢を見ます。

 

この絵本では、まだホームランを打ったことのないルイが、仙ちゃんとのやりとりを通じて、いつかホームランを打とうという気持ちになる姿が描かれています。

 

仙ちゃんは、交通事故で重傷を負ったにもかかわらず、諦めない気持ちを持ち続け、リハビリを終えて、帰ってきました。

 

そんな仙ちゃんは、自分自身もホームランを打つことを諦めていません。

 

さらに、ルイがホームランを打つ前から諦めてしまいそうになりますが、仙ちゃんが励ましたことにより、再びホームランを打ちたいと思うようになります。

 

仙ちゃんの諦めない力は、ルイにも伝わり、いい効果を与えています。

 

何事も諦めないことが大切だと、学べる一冊です。

 

印象的なことば

 

何言ってんだよ。

始める前からあきらめるのかい。

夢見るだけにしとくのかい。

やってみないとわからんだろう。

オレだってまだあきらめてないぞ

 

 

仙ちゃんの言葉です。

 

仙ちゃんが、諦めそうになったルイに、こう言います。

 

仙ちゃんの熱い励ましの言葉です。

 

感想

 

野球少年のルイが、仙ちゃんとのやりとりを通じて、ホームランに対して前向きになる物語です。

 

作者の長谷川集平さんは、小さい頃から、野球が大好きだったそうです。

 

そんな長谷川さんは、ブランクを経て、絵本作家に復帰するときに、復帰第1作は野球を描くことから始めようと決めていたそうです。

 

それほど野球を愛している、長谷川さんだからこそ描ける作品だと思います。

 

私自身は、野球に詳しくないのですが、この絵本は十分楽しめました。

 

それは、この絵本に「諦めない」という普遍的なテーマがあるからだと思います。

 

前向きな気持ちになれる一冊です。

 

野球をやっている子どもたちにオススメです。

 

 

ホームランを打ったことのない君に

ホームランを打ったことのない君に

 

 

 

 

 

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えんふねにのって

『えんふねにのって』を読みました。

 

えんふねにのって

えんふねにのって

 

 

あらすじ

 

幼稚園生のまきちゃんは、えんふねに乗るのが大好きです。

 

今日も、待ちきれずに家から飛び出します。

 

まきちゃんが乗り場に着いて、川の向こうをじっと見つめていると、えんふねがゆっくりとやってきて……。

 

まきちゃんの一風変わった通園風景が描かれた絵本です。

 

見どころ

 

今回の見どころは、非日常的な体験です。

 

幼稚園生のまきちゃんは、えんふねに乗るのが大好きです。

 

今日も待ちきれずに、家から飛び出して、乗り場で待ちます。

 

そして、えんふねがゆっくりとやってきます。

 

えんふねには、先生や友達、船頭のおじさんが乗っています。

 

まきちゃんが通っている幼稚園は、川のそばにあるので、園バスではなく、えんふねに乗って、幼稚園へ行きます。

 

まきちゃんがえんふねに乗り、えんふねは動き始めます。

 

子どもたちは、えんふねから見える景色を楽しみます。

 

途中の橋の上で、まきちゃんのおばあちゃんが、とれたてのトマトを差し入れします。

 

その後、向こうから小舟がやってきて、すれ違いざまに、「この先は通れない」と言います。

 

なんと、先には大きな丸太が、川を塞いでいます。

 

そこに、丸太をどかす作業をしているおじさんから声がかかります。

 

おじさんは、「奥の手で通してやる」と言います。

 

そして、なんとクレーン車がえんふねを、持ち上げていきます。

 

えんふねは、どんどん上まで登っていきます。

 

まるで、えんふねは、鳥になったみたいです。

 

そして、えんふねは丸太を越えると、ゆっくり川の上に降ろされます。

 

えんふねが幼稚園に着き、子どもたちは園長先生の方へ走り出します。

 

今日も、また楽しい1日が始まります。

 

この絵本では、まきちゃんが幼稚園へ通うために乗る、えんふねでのできごとが描かれています。

 

園バスはよく聞きますが、えんふねはあまり聞かないかもしれません。

 

えんふね自体が、非日常的なものに思えますが、まきちゃんたちにとっては、日常的に乗るものです。

 

そんな日常の中で、あるできごとが起こります。

 

それは、丸太が川を塞いでいて、えんふねが通れないため、クレーン車がえんふねを持ち上げるというものでした。

 

えんふねに乗る子どもたちは、まるで鳥のように、空を飛んでいるかのような感覚になります。

 

子どもたちの、ドキドキやワクワクが伝わってきます。

 

非日常的な体験が、楽しく描かれている絵本です。

 

印象的なことば

 

ようちえんまで、このまま とんで いけそうだね…

 

 

 

えんふねがクレーン車に持ち上げられて、高いところから街の景色を見たときの、子どもの言葉です。

 

まるで鳥になったような、ワクワク感が伝わってきます。

 

感想

 

えんふねでのできごとが描かれた、楽しい一冊です。

 

子どもの頃、こんな風にえんふねで幼稚園に通えたら、楽しいだろうなと思いました。

 

発想がユニークで、大人でもなんだかワクワクしてくる絵本です。

 

こんなふねや幼稚園があったらいいなという気持ちになります。

 

子どもに読んであげたい一冊です。

 

 

えんふねにのって

えんふねにのって

 

 

 

 

 

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ねこのなまえ

『ねこのなまえ』を読みました。

 

ねこのなまえ

ねこのなまえ

 

 

あらすじ

 

春のある日、さっちゃんがひとりで公園を歩いていると、1匹の野良猫と出会います。

 

ねこは、さっちゃんにお願いをしてきます。

 

そのお願いとは……。

 

さっちゃんとねこの心温まる一冊です。

 

見どころ

 

今回の見どころは、名前があることの素晴らしさです。

 

ある春の日に、さっちゃんは公園へ向かいます。

 

さっちゃんは、桜並木の下で、1匹の野良猫に出会います。

 

ねこは、さっちゃんにお願いごとをします。

 

そのお願いごととは、名前をつけてほしいということでした。

 

さっちゃんは、名前がないことを想像して、寂しい気持ちになります。

 

さっちゃんは、ねこに名前のアイディアを出しますが、野良猫はどうもしっくりきません。

 

さっちゃんは、名前には願いがこもっていることを思い出します。

 

そして、さっちゃんは、ねこにどんなときが一番幸せか尋ねます。

 

ねこは、「魚を食べているとき」と答えます。

 

しかし、魚の名前は、ねこには合いません。

 

ねことさっちゃんは、緑の中をゆっくりと歩きます。

 

ねこのしっぽが、ゆらゆらと揺れます。

 

さっちゃんは、ついにねこの名前を思いつきます。

 

それは、「しっぽ」という名前でした。

 

ねこも、その名前を気に入ります。

 

しっぽは、さっちゃんにお礼を言います。

 

そして、しっぽはさっちゃんに、「名前を呼んでくれませんか?」とお願いします。

 

さっちゃんは、しっぽの名前を何度も呼びます。

 

しっぽは、その度に返事をします。

 

しっぽが見えなくなっても、さっちゃんは何度も名前を呼びます。

 

その度に、どこからか嬉しそうな返事が返ってきます。

 

この絵本では、さっちゃんとねこの交流が描かれています。

 

さっちゃんは、ねこの願いごとを受け入れ、ねこに名前をつけます。

 

その過程で、さっちゃんは名前の大切さや意味を感じていきます。

 

最後には、さっちゃんは、何度もねこの名前を呼びます。

 

ねこも嬉しそうに、返事をします。

 

名前は、呼んでもらうことに意味があります。

 

名前は当たり前にあるものだと思いますが、もしなかったらどうなるでしょうか?

 

それは、とても寂しいことです。

 

自分が自分でなくなってしまうような感覚さえあります。

 

名前があることは、自分が自分であるという、存在の証明にもなるのです。

 

まさに、名前があることの素晴らしさが表現された一冊です。

 

印象的なことば

 

なまえがないって どういうことでしょう。さっちゃんから さっちゃんを とったら、そのこは だれになるのでしょう。だれでもない じぶんって、どんなかんじでしょう。

 

改めて、名前がないということを考えさせられる言葉です。

 

名前の大切さも感じることができる言葉です。

 

感想

 

さっちゃんがねこに、名前をつけてあげる物語です。

 

優しい色づかいのイラストが、春の様子を見事に表現しています。

 

また、ねこも可愛らしくて、温かな気持ちになります。

 

普段、名前のことを深く考えていませんでしたが、この絵本を読んで、改めて名前の大切さを感じました。

 

名前がないと、誰が誰だかわからなくなってしまうし、自分が何者かもわからなくなってしまいそうです。

 

それほど、名前は重要な役割を果たしているのです。

 

さっちゃんとねこの交流を通じて、名前の大切さがわかる、素敵な絵本です。

 

 

ねこのなまえ

ねこのなまえ

 

 

 

 

 

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