死ぬまでに読みたい絵本

「日常に絵本を」をテーマに、大人も楽しめる絵本をご紹介するブログです。

きりのなかのはりねずみ

『きりのなかのはりねずみ』を読みました。

 

きりのなかのはりねずみ (世界傑作絵本シリーズ)

きりのなかのはりねずみ (世界傑作絵本シリーズ)

 

 

あらすじ

 

日が沈み、あたりが薄暗くなってきた頃、はりねずみは、こぐまの家に出かけて行きます。

 

ふたりは仲良しで、いつもお茶を飲みながら、星を数えるのです。

 

はりねずみは、こぐまの好物の野いちごのはちみつ煮を持ち、こぐまの家へ向かいます。

 

道の途中、はりねずみは霧のなかに浮かぶ白い馬に出会います。白い馬に心を奪われたはりねずみは、霧のなかに入っていきますが……。

 

ポイント

 

今回のポイントは、はりねずみがこぐまの家にたどり着くまでの道のりです。

 

はりねずみは、こぐまの家にたどり着くまでに、ミミズクやしろいうまなど、様々な動物たちと出会います。

 

動物たちの中には、はりねずみを助けてくれない動物もいるけれど、助けてくれる動物もいます。

 

はりねずみはひとりで歩いてきたけれど、目的地にたどり着けたのは、動物たちとの出会いがあったからでした。

 

ひとりぼっちで目的地まで歩いて行くのは心細いけれど、勇気を出して進めば、そこには様々な出会いがあり、協力者も現れる。そして、いつの間にか目的地にたどり着いている。

 

ひとりで歩いてきたように見えても、振り返ってみると必ず誰かに支えられている。

 

これは、まさに人生と同じですね。

 

はりねずみが経験した冒険は、私たちが生きる人生にとてもよく似ています。

 

印象的な言葉

 

はりねずみは、こぐまのおしゃべりをききながら、こぐまくんといっしょはいいなとおもいました。

 

はりねずみの心の声です。

 

やっぱりひとりよりも、ふたりの方が心強いし、楽しいものです。

 

はりねずみは、ひとりでこぐまの家までやってきて、心細い思いをしたからこそ、そう思ったのですね。

 

作者の紹介

 

本書の作者は、ユーリー・ノルシュテインとセルゲイ・コズロフです。

 

ノルシュテインは、1941年ロシアのペンザ州アンドレーエフカ村に生まれます。

 

その後、61年にアニメーション美術上級コースを卒業します。

 

アニメーション作品としては、『きつねとうさぎ』『あおさぎとつる』『話の話』、絵本のもとになった『きりのなかのはりねずみ』などがあります。

 

コズロフは、1939年モスクワ生まれ。現代ロシアを代表する児童文学作家です。

 

また、本書のイラストは、フランチェスカ・ヤールブソワが手がけています。

 

彼女は、ノルシュテインの妻であり、ノルシュテインのアニメーション作品の美術監督でもあります。

 

感想

 

本書は、短編アニメーションの名作『きりのなかのはりねずみ』をもとに作られました。

 

監督は、世界中の映像作家に影響を与えたロシアのアニメーション作家、ユーリー・ノルシュテイン

 

児童文学作家セルゲイ・コズロフが物語を作り、美術監督フランチェスカ・ヤールブソワが絵を描いています。

 

第48回産経児童出版文化賞美術賞を受賞するなど、評価の高い絵本です。

 

魅力的な動物のキャラクターや幻想的な世界観に思わず引き込まれます。

 

イラストが芸術的で、まるで美術館で絵画を見ているようです。

 

また、はりねずみの体験する冒険が、私たちが生きる人生そのものと重なり、読後に静かな余韻を残します。

 

夜寝る前など、静かで美しい世界観に浸りたい時に、オススメです。

 

 

きりのなかのはりねずみ (世界傑作絵本シリーズ)

きりのなかのはりねずみ (世界傑作絵本シリーズ)

 

 

 

 

パパはジョニーっていうんだ

『パパはジョニーっていうんだ』を読みました。

 

パパはジョニーっていうんだ

パパはジョニーっていうんだ

 

 

あらすじ

 

ティムの両親は離婚し、ティムはママと暮らすことになります。

 

ある日、ティムはパパと1日を一緒に過ごすことになりました。

 

映画を観たり、ピザを食べたり、ふたりは楽しい時間を過ごしますが、やがて別れの時間が訪れます……。

 

子どもと親の絆について考えさせられる絵本です。

 

ポイント

 

今回のポイントは、子どもと親の絆です。

 

ティムの両親は、離婚しています。

 

絵本の中に「離婚」という文字はありませんが、文章から両親が離婚したことがわかります。

 

秋のはじめに、ティムと母親が新しい町に引っ越してから、ティムはずっと父親には会っていないようです。

 

ティムは、久しぶりに父のジョニーに会ったとき、嬉しい気持ちを抑え、母親に言われた通りホームでじっとしています。

 

本当は父親のもとに走っていきたいけれど、母親に言われたことを守らなければいけない……。

 

このことから、両親が離婚したという複雑な子どもの気持ちが見てとれます。

 

久しぶりに再会したティムとジョニーは、楽しい時間を過ごします。

 

ティムとジョニーにとって、一緒に過ごすことのできる貴重な時間です。

 

ティムは、会う人すべてに父のことを紹介します。

 

大好きな父親のことを紹介したくてたまらない、子どもの気持ちが痛いほど伝わってきます。

 

そんなふたりにも、やがて別れの時が訪れます……。

 

帰りの電車の中に、ジョニーはティムを連れて乗り込みます。

 

ジョニーは、ティムを社内の人々に紹介します。

 

「この子は、ぼくの息子です。最高にいい息子です。ティムっていうんです!」

 

父親の息子に対する愛情が伝わる言葉です。

 

離婚しても、子どもと親という関係は変わりません。

 

子どもと父親の強い絆が、この物語の核にあります。

 

印象的な言葉

 

線路は、どこまでもつづいているから。パパの住む町までも、ずっと……。

 

ティムの言葉です。

 

ティムは、ジョニーの乗っている電車を見送ります。

 

電車はあっという間に見えなくなりますが、線路からはまだかすかに音が伝わってきます。

 

ホームにひとりたたずむティムは、心の中でこう言います。

 

「だから、いつかきっと電車はもどってくるだろう。ぼくのだいすきなパパをのせて」

 

離れていても、線路は父の住む町まで続いています。

 

だから、いつか父がまた電車でやってくる。

 

そう思うと、寂しい気持ちが和らぎますよね。

 

作者の紹介

 

作者は、ボー・R・ホルムベルイです。

 

1945年にスウェーデンに生まれます。

 

大学では文学、北欧の言語を専攻します。

 

1970年から高校で教壇に立つ一方で、子どもと大人のそれぞれを対象にした執筆のコースを指導し、自らも精力的に創作に取り組んでいます。

 

本書でイラスト手がけているのは、エヴァエリクソンです。

 

1949年、スウェーデン生まれです。

 

スウェーデンの人気イラストレーター・絵本作家です。

 

また、訳者はひしきあきらこです。

 

感想

 

親子の絆を感じられる絵本です。

 

現代の日本では、3組に1組の夫婦が離婚するということをよく耳にします。

 

それくらい多くの夫婦が離婚を経験しています。

 

この絵本は、日本人の多くが感情移入できる物語だと思います。

 

離婚しても親子という事実は変わりません

 

そのため、離婚した理由にもよると思いますが、親子の絆も変わらずに存在するものだと思います。

 

本書では、そんな変わらない親子の絆を感じることができます。

 

また、子どもと父親の絆がメインで描かれていますが、最後のページではティムと母親の後ろ姿も描かれています。

 

ティムをそっと包むような母親の姿が印象的です。

 

この絵から、母と子の絆も感じることができます。

 

親子の強い絆が感動を呼びます。

 

 

パパはジョニーっていうんだ

パパはジョニーっていうんだ

 

 

また、先日ミュージシャンのボブ・ディランノーベル文学賞を受賞しました。

 

このブログでも、ディランの絵本『はじまりの日』を紹介したので、よかったらこちらもあわせてご覧ください。

 

ehon0016.hatenablog.com

 

 

 

 

ポテト・スープが大好きな猫

『ポテト・スープが大好きな猫』を読みました。

 

ポテト・スープが大好きな猫

ポテト・スープが大好きな猫

 

 

この絵本は、神保町の本屋で一目惚れして購入した絵本です。もともと猫が好きだったのと、村上春樹が翻訳しているところに魅力を感じました。

 

あらすじ

 

おじいさんは、雌猫とテキサスの田舎に住んでいました。ねずみも捕らず、のんびりと暮らす猫の好物は、おじいさんが作るポテト・スープです。おじいさんは、猫のことを気に入っているのですが、そんなそぶりはほとんど見せません。

 

ある日、おじいさんが魚釣りに出かけようとしますが、猫は眠り込んでいて起きません。おじいさんがひとりで魚釣りに出かけると……。おじいさんと猫の心温まるストーリーです。

 

ポイント

 

今回のポイントは、おじいさんと雌猫の絆です。

 

この絵本では、猫はただの猫ではなく、「雌猫」と書かれています。

 

この表現の通り、おじいさんと雌猫は、まるで長年連れ添った夫婦のようです。

 

普段は愛情表現をあまりしないおじいさんですが、本当は猫のことをとても大事に思っています。

 

そのことは、電気毛布をうちに持って帰ってきたり、ポテト・スープを作って猫のもとまで運んだりすることからわかります。

 

また、ひとりで魚釣りをしたり、食事をしている時のおじいさんの姿は、とても寂しそうです。

 

そのことからも、おじいさんの猫に対する愛情の深さがわかります。

 

また、ふたりの間からは、わざわざ言葉にしなくても、気持ちが通じ合っているような絆を感じ取ることができます。

 

印象的な言葉

 

お前は今のお前のままでいいんだからさ。

 

おじいさんが猫に言った言葉です。

 

以前、おじいさんは、猫がねずみも捕まえないことに対して、こう言いました。

 

「なんて猫だ、まったく。なんの役にも立たんのだからな。ねずみ一匹つかまえやしない」

 

しかし、猫が魚を捕まえてきた後には「でもな、お前、魚もねずみも、べつにつかまえなくたっていいんだよ」とおじいさんは猫に言います。

 

そして、こう言います。

 

「お前は今のお前のままでいいんだからさ」

 

このことから、おじいさんは猫のありのままを受け入れ、愛していることがわかります。

 

作者の紹介

 

絵本の作者は、テリー・ファリッシュです。

 

ニューハンプシャーポーツマスに住むヤングアダルト小説の作家です。

 

主な著作には、『動物で会話』、『なぜ僕はもうブルーなの』、『海鳥の小屋』などがあります。

 

絵を担当したのは、バリー・ルートです。

 

彼は、絵本のイラストレーターとして、多数の作品のイラストを手がけています。

 

そして、訳は村上春樹です。

 

感想

おじいさんと雌猫の絆に心が温まります。

 

また、何と言っても、絵本に出てくる雌猫が魅力的です。

 

イラストのオレンジ色の毛並みが印象的で、読者の心を奪います。

 

そして、題名にも入っている「ポテト・スープ」がとてもおいしそうです。

 

本書に出てくる料理名はどれも印象的ですが、気になったのが「ブラックバード・パイ」です。

 

日本ではあまり馴染みのない言葉ですが、欧米では「ブラックバード・パイ」という有名な童謡があるそうです。

 

どうやら、おじいさんはその歌を思い出して言っているようで、本当にブラックバード・パイという料理があるわけではないそうです。

 

また、おじいさんもいい味を出しています。

 

この絵本では、おじいさんは猫以外と交流している場面がありません。

 

日本で言う「がんこじじい」のような人ですが、猫をとても可愛がっている心優しい人でもあります。

 

本書を読んでいると、おじいさんと猫の気ままな暮らしに憧れます。

 

大事な人にプレゼントしたくなる絵本です。

 

猫好きな人には、特にオススメです。

 

 

ポテト・スープが大好きな猫

ポテト・スープが大好きな猫

 

 

 

 

ラストリゾート

『ラストリゾート』を読みました。

 

ラストリゾート

ラストリゾート

 

 

何年か前に、絵本のガイドブックで知り、気になっていた絵本です。大人が楽しめる絵本になっています。

 

あらすじ

 

想像力をなくしてしまった画家は、想像力を探しに旅に出かけることにします。愛車に乗って、長い道をぬけ、誰も通らないような崖をすぎ、彼がたどり着いた先は、海辺にたつホテル「ラストリゾート」でした。しかし、そこにいたのはどこか変わった宿泊者たちで……。

 

想像力をなくした画家が体験する、不思議なリゾート・ホテルの物語です。

 

ポイント

 

今回のポイントは、登場人物たちです。

 

片脚の船乗りや白いドレスの女性など、この絵本に出てくる登場人物たちは、みんなどこかで見たことがある人ばかりです。

 

実は、彼らは有名なお話に出てくる登場人物や実在した人物なのです!

 

あとがきに、詳しい登場人物たちの紹介が載っています。

 

あとがきを読むと、登場人物の本当の姿がわかって面白いです。

 

私が気になったのは、白いドレスの女です。

 

白いドレスの女性は、実は人魚姫なのです。

 

小さな頃に人魚姫のお話を読んだときは、最後の結末に胸が締め付けられ、悲しい気持ちになったのを覚えています。

 

しかし、今回人魚姫はハッピー・エンドを迎えます!

 

白いスーツの背の高い男性と再会し、ふたりは一緒にラストリゾートを後にします。

 

思わず「よかったね」と心の中でつぶやきました。

 

印象的な言葉

 

なんだかうれしくなった。いつも思うのだが、詩は、声にだして読まれたがっているのだ。どんなに勝手な読まれかたでも、声にだして読まれたがっている。

 

主人公の画家の言葉です。

 

浜辺を散歩する詩人のエミリー・ディキンソンが詩をつぶやいているのを耳にしたことから、画家が発した言葉です。

 

詩は目で読んで味わうのもいいですが、この言葉の通り、声に出して読まれたがっているのかもしれません。

 

言霊という言葉もあるくらいですから、声にだして言葉にすることに意味があるのかもしれないですね。

 

絵本に関して言えば、普段は絵本を目で見て、読んで楽しんでいますが、声に出して読むことで、耳でお話を味わうことができますし、人にお話を伝えることもできます。

 

また、声にだして読むことで、新たな発見や楽しみがあったりもします。

 

このように、絵本も声にだして読まれたがっているのかもしれませんね。

 

作者の紹介

 

本書のイラストを担当したロベルト・インノチェンティは、1940年イタリア、フィレンツェ近くの小さな町に生まれます。

 

13歳のときから鋳鉄工場で働き、家計を支えます。

 

その後、専門的な美術教育を受けることはなく、独学でイラストレーターの道に進みます。

 

これまで、アニメーション、映画や劇場のポスター、本のデザイン、挿絵などに携わっています。

 

また、絵本も数多く出版しており、当作品で2003年ボローニャ・ラガッツィ賞フィクション部門特別賞を受賞しています。

 

実は、この絵本の主人公である画家は、彼自身のことだそうです。

 

本書で文を担当した、J・パトリック・ルイスは、詩人・絵本作家としても活躍し、子供に向けた作品は50を超えます。

 

感想

 

まさに大人向けの絵本で、絵と物語に引き込まれました。

 

自分もラストリゾートへ来た旅人になった気分です。

 

絵が想像力を掻き立ててくれ、さらに物語が詩的な世界にいざなってくれます。

 

まるで上質なロードムービーを観ているかのようです。

 

人間の生み出す想像力の豊かさに驚かされます。

 

絵や文章の力を、存分に感じることのできる完成度の高い1冊です。

 

 

ラストリゾート

ラストリゾート

 

 

 

 

 

悲しい本

『悲しい本』を読みました。

 

悲しい本 (あかね・新えほんシリーズ)

悲しい本 (あかね・新えほんシリーズ)

 

 

題名が気になり、手に取った絵本です。タイトルの通り、悲しみについての詩的な絵本です。最後は希望のある終わり方でよかったです。悲しいときに、繰り返し読みたい絵本です。

 

あらすじ

 

本書は、最愛の息子を失ったひとりの男性の物語です。男性は、さまざまな方法で、悲しみから逃れようとしますが、いつしかまた悲しみにのまれてしまいます。

 

そんな彼を救うのは、幸せな頃の記憶と、誕生日を祝うローソクの火……。

 

愛する者を失った悲しみを、徹底的に見つめ、表現した感動の絵本です。

 

ポイント

 

今回の注目ポイントは、主人公の最愛の息子を失った男性の、悲しみの気持ちです。

 

「悲しい」とひとことで言っても、そこにはたくさんの意味が詰まっています。

 

純粋な悲しさ、悲しみの原因への行き場のない怒り。

 

また、悲しい気持ちを他者へ伝えたい気持ちと、反対に誰にも話したくない気持ち。

 

そこには、複雑な気持ちが渦巻いています。

 

また、悲しいときは、塞ぎ込んだり、泣いたりするものと思いがちですが、それだけではありません。

 

シャワーを浴びながら大声で叫んだり、スプーンでテーブルをたたいたり、ときにはひどいことをすることもあります。

 

さらに、悲しみをやりすごす方法を考えたりもします。

 

このように、「悲しい」とひとことで言っても、そこには実に多様な気持ちや行動が含まれます。

 

本書では、悲しさを徹底的に見つめたことのある人にしかわからない、さまざまな表現がなされています。

 

また、言葉の表現に寄り添うような、クェンティン・ブレイクのユーモラスなイラストも必見です。

 

印象的な言葉

 

誰にも、なにも話したくないときもある。誰にも。どんなひとにも。誰ひとり。ひとりで考えたい。私の悲しみだから。ほかの誰のものでもないのだから。

 

主人公の男性のモノローグです。

 

この前のページでは、悲しい気持ちをなにもかも誰かに話したいときがあって、誰かを見つけて話すということが書いてあります。

 

しかし、次のページでは、誰にもなにも話したくないとあります。

 

一見矛盾しているように思いますが、これは自然な気持ちだと思います。

 

悲しいときに、誰かに何もかも話して、共感してもらい、スッキリしたいという気持ちもあります。

 

一方で、誰にも何も話したくないという気持ちのときもあります。

 

自分だけの悲しみに、ひとりで浸りたいという気持ち、わかる気がします。

 

そんなときは、自分の世界に入り、悲しみに浸った方がなんとなく落ち着くのかもしれません。

 

自分ひとりでとことん悲しん方が、案外スッキリすることもあるように思います。

 

ひとに話すことと、ひとりで考えること、どちらも大切ですよね。

 

その両方がないと、しっかり悲しめないのです。

 

そして、その両方がないと、先の希望へ近づく道が、逆に遠くなってしまうのだと思います。

 

きっと主人公の男性は、そのことをわかっているのだと思います。

 

作者の紹介

 

作者のマイケル・ローゼンは、1946年イギリスのサウス・ハーロウ生まれです。

 

オックスフォード大学卒業後、フリーランスのライター、教師、ジャーナリストを経験し、ラジオやテレビの仕事に携わります。

 

作家としては、イギリス国内のみならず、アメリカでも数多くの賞を受賞しています。

 

画家のクェンティン・ブレイクは、1932年イギリスのケント州生まれです。

 

そして、ケンブリッジ大学チェルシー美術学校で学びます。

 

また、数々の賞を受賞しており、1999年にはイギリス皇室から初代名誉児童文学作家の称号を授かっています。

 

また、訳者は言わずと知れた、日本を代表する詩人の谷川俊太郎です。

 

感想

 

この絵本は、ただ単に悲しいだけではなく、希望の絵本でもあります。

 

最後のページは、1本のローソクと写真立てを見つめる男性が描かれています。

 

完全なハッピーエンドではないのですが、希望のある終わり方になっています。

 

そこが、この絵本独自の味だと思います。

 

読後は、心にローソクの炎のような、あたたかな余韻が残ります。

 

現在、悲しみに包まれている人にオススメです。

 

特に、愛する人を失った人にオススメしたいです。

 

また、今は悲しくない人も、悲しみの形はいろいろとあるんだということと、悲しみの先には必ず希望があるんだということがわかる素晴らしい絵本なので、オススメです。

 

 

悲しい本 (あかね・新えほんシリーズ)

悲しい本 (あかね・新えほんシリーズ)

 

 

 

 

紙しばい屋さん

『紙しばい屋さん』を読みました。

 

紙しばい屋さん

紙しばい屋さん

 

 

あらすじ

 

紙しばい屋さんは、テレビの台頭とともに、街角で見かけることがなくなってしまいました。長い年月を経て、もう一度仕事をしようと、紙しばい屋さんのおじいさんは自転車で山を降り、町へ出ていきます。

 

しかし、町はすっかり様変わりしていました。そんな中、おじいさんは拍子木をカチーンと打ち鳴らして、声を張り上げます……。

 

時代とともに変わってゆくものと、変わらないもの。感動的なストーリーが、透明感のある絵とともに描かれる、ひとりの紙しばい屋さんの物語です。

 

ポイント

 

何と言っても、アレン・セイの描く透明感あふれる絵が素晴らしいです。

 

日本の風景やおじいさんをはじめとする登場人物から、作者の日本への愛情が感じられます。

 

まるでおじいさんやおばあさんが本当に生きているかのようです。

 

印象的な言葉

 

まったく信じられん!ありゃ、あのそば屋だよ。ここらへんにはあれしかなかったんだぞ。あとは全部公園だったのに。きれいな公園だったなあ。なんと、まあ、見てごらん、お店と食堂だらけだ。そのために、あの立派な木をみんな切っちゃったんだ。みなさんどうしてそんなにいろいろな物を買いたいのかね、どうしてそんなに違った食べ物を食べたいんだろうなあ?

 

変わってしまった町に対して、おじいさんが発した言葉です。

 

以前は、きれいな公園があったのに、今はお店と食堂だらけの町になってしまった。そんな町を見て出た、素直な言葉だと思います。

 

現代は、都市開発などによって、どんどん町の様子が変わってしまいます。

 

便利になる一方で、思い出の場所がなくなってしまうのは悲しいですよね。

 

また、どの場所も同じように見えてしまい、その土地固有のものが少なくなり、面白みがなくなってしまうのも寂しいですね。

 

そんな変わりゆく町に対してのおじいさんの発言は、心を打つものがあります。

 

町が変わるのはしょうがない部分もありますが、せめてそこで経験した思い出は忘れないように大事にしたいですね。

 

作者の紹介

 

作者のアレン・セイは、1937年に横浜生まれ、現在はアメリカ在住だそうです。

 

中学生時代に東京で漫画家の野呂新平に師事し、絵を学びます。

 

その後、16歳で渡米し、兵役を経て写真家になります。

 

また、本業のかたわら、小説なども執筆しました。

 

1972年にはじめての絵本を出版し、50歳をむかえた頃から絵本創作に専念し、コルデコット賞などを受賞しています。

 

日本生まれだからこそ、日本人の心がうまく描けるのですね。最初は、本書を外国人の方が書いたのだと知って驚きましたが、経歴を見て納得しました。

 

感想

 

本書は、とにかく絵が素敵で、ストーリーも感動的です。

 

私は、おじいさんのまわりに人が大勢集まっているところで、涙が出そうになりました。

 

大人が楽しめる絵本だと思いますが、子どもに読んでほしい絵本でもあります。

 

現代は、テレビだけでなく、さまざまな娯楽があります。

 

子どもたちの周りには、ゲームやネットなど、娯楽が溢れています。

 

そんな現代の子どもたちは、かつて紙しばい屋さんが存在したことすら知らないかもしれません。

 

本書は、そんな紙しばい屋さんを知らない子どもたちにこそ見てほしいと、強く思います。

 

この絵本をきっかけに、かつてこんな素晴らしい楽しみがあったんだということを知ってほしいと思います。

 

大人が子どもに読み聞かせてほしい絵本です。

 

 

紙しばい屋さん

紙しばい屋さん

 

 

 

はじまりの日

『はじまりの日』を読みました。

 

はじまりの日

はじまりの日

 

 

書店で見つけ、即買いした絵本です。ボブ・ディランは、10代の頃から聴いていたので、絵本の表紙に「ボブ・ディラン作」と書かれているのを見て、興味を惹かれて購入しました。

 

あらすじ

 

本書は、ボブ・ディランの名曲「フォーエバー・ヤング」の絵本です。

 

「フォーエバー・ヤング」の歌詞が、アメリカ出身の詩人アーサー・ビナードの日本語訳と、ポール・ロジャースのイラストによって表現されています。

 

ポイント

 

「フォーエバー・ヤング」という曲は、ボブ・ディランの息子のジェイコブ・ディランに宛てた曲です。

 

子供のことを思ってつくられたあたたかな名曲が、素晴らしい日本語訳で表現されています。

 

また、本書のイラストにも注目です。

 

イラストを担当したポール・ロジャースによると、絵を描くにあたって、ボブ・ディランのいろんな曲を繰り返し聴いたそうです。

 

そして、彼はディランに勇気と影響を与えた人々も絵本に登場させました。

 

絵本に登場するさまざまなミュージシャンや作家も必見です!

 

ディランが影響を受けたものが、イラストを通じてわかって面白いです。

 

印象的な言葉

 

ぼくはひとりアリゾナ州に行って、そこで息子のことを思いながら『フォーエバー・ヤング』という歌をつくった。べつに作詞作曲をやろうと意気込んだわけじゃなく、自然にうかんできて、そのままできあがった。なるべく感傷的にならないようにと、ちょっと努力しただけだ

ボブ・ディラン

 

今回は、絵本の中から印象的な言葉を選ぶのは至難の技だったので、はじめの方に載っていたディランの言葉を選びました。

 

ディランの歌詞は、難解なものが多いのですが、この曲は違います。

 

ディランの言葉通り、子供のことを思いながらつくられた、シンプルで温かみのある歌詞になっています。

 

作者の紹介

 

絵本の作者は、言わずと知れたミュージシャンのボブ・ディランです。

 

1941年、アメリカのミネソタ州生まれ。高校生の頃からバンドを結成して、ライブ活動を始めます。

 

その後、大学を中退してニューヨークに向かい、カフェでフォーク・ソングを歌い始めます。

 

そして、プロデューサーのジョン・ハモンドの目に留まり、62年にレコードデビュー。

 

フォークとブルース、カントリーもロックも吸収して、自分ならではの音楽をつくりあげ、アメリカを代表するミュージシャンになります。

 

本書の絵を担当しているのが、ポール・ロジャースです。

 

1957年、アメリカのカリフォルニア州生まれ。

 

ロサンゼルスのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインで学び、1980年からイラストレーターとして活躍。

 

ジャズ・フェスティバルなどのポスターを多く手がけています。

 

また、本書の日本語訳を担当しているのが、アーサー・ビナードです。

 

1967年アメリカのミシガン州生まれで、大学卒業と同時に来日し、日本語での詩作を始めます。

 

感想

 

本書は、いわゆる物語ではなく、曲の歌詞によって構成されているのですが、まるでひとつの物語のようです。

 

歌詞とイラスト、さらに素晴らしい日本語訳で、まさに言葉と絵の化学反応が起こっています!

 

本書の中に、ニューヨークのワシントン・スクエア・パークが描かれているページがあるのですが、そこにはビート・ジェネレーションの作家や詩人たちが登場しています。

 

私の好きな作家、『オン・ザ・ロード』の著者ジャック・ケルアックもいて、ワクワクしました。

 

本書には、ディランに関係のあるさまざまな人物が出てくるので、それもまたこの絵本の魅力になっています。

 

「この人ってもしかして……?」と考えながら見てみると楽しいです。

 

主にディランのファンや大人が楽しめる絵本ですが、ディランを知らない子供に、これを機にディランや彼の歌詞の世界を知ってもらいたいです。

 

また、音楽関係の絵本でいうと、こちらもオススメです。

 

ehon0016.hatenablog.com

 

『はじまりの日』は、音楽ファンはもちろんのこと、音楽をあまり聴かない方にもオススメです。

 

きっと、あなたもディランの歌詞の世界に魅了されるでしょう。

 

 

はじまりの日

はじまりの日