紙しばい屋さん
『紙しばい屋さん』を読みました。
あらすじ
紙しばい屋さんは、テレビの台頭とともに、街角で見かけることがなくなってしまいました。長い年月を経て、もう一度仕事をしようと、紙しばい屋さんのおじいさんは自転車で山を降り、町へ出ていきます。
しかし、町はすっかり様変わりしていました。そんな中、おじいさんは拍子木をカチーンと打ち鳴らして、声を張り上げます……。
時代とともに変わってゆくものと、変わらないもの。感動的なストーリーが、透明感のある絵とともに描かれる、ひとりの紙しばい屋さんの物語です。
ポイント
何と言っても、アレン・セイの描く透明感あふれる絵が素晴らしいです。
日本の風景やおじいさんをはじめとする登場人物から、作者の日本への愛情が感じられます。
まるでおじいさんやおばあさんが本当に生きているかのようです。
印象的な言葉
まったく信じられん!ありゃ、あのそば屋だよ。ここらへんにはあれしかなかったんだぞ。あとは全部公園だったのに。きれいな公園だったなあ。なんと、まあ、見てごらん、お店と食堂だらけだ。そのために、あの立派な木をみんな切っちゃったんだ。みなさんどうしてそんなにいろいろな物を買いたいのかね、どうしてそんなに違った食べ物を食べたいんだろうなあ?
変わってしまった町に対して、おじいさんが発した言葉です。
以前は、きれいな公園があったのに、今はお店と食堂だらけの町になってしまった。そんな町を見て出た、素直な言葉だと思います。
現代は、都市開発などによって、どんどん町の様子が変わってしまいます。
便利になる一方で、思い出の場所がなくなってしまうのは悲しいですよね。
また、どの場所も同じように見えてしまい、その土地固有のものが少なくなり、面白みがなくなってしまうのも寂しいですね。
そんな変わりゆく町に対してのおじいさんの発言は、心を打つものがあります。
町が変わるのはしょうがない部分もありますが、せめてそこで経験した思い出は忘れないように大事にしたいですね。
作者の紹介
作者のアレン・セイは、1937年に横浜生まれ、現在はアメリカ在住だそうです。
中学生時代に東京で漫画家の野呂新平に師事し、絵を学びます。
その後、16歳で渡米し、兵役を経て写真家になります。
また、本業のかたわら、小説なども執筆しました。
1972年にはじめての絵本を出版し、50歳をむかえた頃から絵本創作に専念し、コルデコット賞などを受賞しています。
日本生まれだからこそ、日本人の心がうまく描けるのですね。最初は、本書を外国人の方が書いたのだと知って驚きましたが、経歴を見て納得しました。
感想
本書は、とにかく絵が素敵で、ストーリーも感動的です。
私は、おじいさんのまわりに人が大勢集まっているところで、涙が出そうになりました。
大人が楽しめる絵本だと思いますが、子どもに読んでほしい絵本でもあります。
現代は、テレビだけでなく、さまざまな娯楽があります。
子どもたちの周りには、ゲームやネットなど、娯楽が溢れています。
そんな現代の子どもたちは、かつて紙しばい屋さんが存在したことすら知らないかもしれません。
本書は、そんな紙しばい屋さんを知らない子どもたちにこそ見てほしいと、強く思います。
この絵本をきっかけに、かつてこんな素晴らしい楽しみがあったんだということを知ってほしいと思います。
大人が子どもに読み聞かせてほしい絵本です。