ゆらゆらばしのうえで
『ゆらゆらばしのうえで』を読みました。
あらすじ
激しい雨が降った後、橋は1本の丸太だけになっていました。
そこに、1匹のうさぎが駆け込み、きつねが後を追いかけます。
すると、段々と橋が傾き始めて……。
うさぎときつねの、不思議な絆が描かれた絵本です。
見どころ
今回の見どころは、うさぎときつねの奇妙な友情です。
激しい雨によって、丸太1本になってしまった橋に、うさぎときつねがやってきます。
きつねは、うさぎを追いかけて、捕まえようとしています。
しかし、橋は傾き始め、ふたりは身動きが取れなくなってしまいます。
時が経ち、夜になります。
やがて、ふたりは身の上話を始めます。
そして、夜明けになると、風で橋が揺れ出します。
ふたりは、丸太に振り回されて、先端にしがみつきますが、今にも落ちそうです……。
すると、きつねの足が土手の茂みに絡まり、きつねに促され、うさぎはきつねの背中の上を渡ります。
そして、うさぎの手につかまり、きつねも土手に這い上がります。
その瞬間、丸太が川に落ちます。
ふたりは、思わず喜び合います。
ところが、きつねが我に帰り、目がギラリと光ります。
それを察知したうさぎは、いちもくさんに逃げ出します。
きつねは、うさぎの後を追いかけますが、立ち止まり、うさぎを逃します。
きつねとうさぎは、本来であれば敵同士のふたりですが、協力し合ううちに、奇妙な絆が形成されます。
吊り橋効果という言葉がありますが、まさにその通りで、ふたりの間には恋心ではありませんが、絆や連帯感のようなものが形成されていきます。
極限の状態では、このような絆が生まれるのは、ある意味自然なことかと思いますが、それにしても敵同士のきつねとうさぎが仲のいい姿を見ると、なんだか不思議ですね。
しかし、きつねがうさぎのことを心配したり、ふたりとも助かったあとに喜び合ったりするシーンは、なんだかとても心が温まります。
ふたりの性質上、本当の友情を深めていくのは難しいと思いますが、それでも一時の友情にしろ、ふたりの間に絆ができたことは確かです。
それは、一瞬のことであっても、なんとも感動的です。
そして、最後にはきつねはうさぎを追いかけるのをやめ、うさぎを逃してやります。
普段は怖いきつねでも、こんな時に優しさがキラリと光ります。
それは、うさぎが一瞬にしても、友達だったからなのかもしれません。
ふたりの奇妙な絆に、心打たれる一冊です。
印象的なことば
おい うさぎ! おきろ。いま ねたら おちて しぬぞ。こら! もっと いのちを だいじにしろ!!
きつねがうさぎに言った言葉です。
夜も深まって、ふたりが話している時に、ふいにうさぎの返事が聞こえなくなり、きつねがうさぎの寝息に気付き、こう叫びます。
元々は、うさぎの命を狙っていたきつねが発した、意外な言葉ですが、その言葉の奥には、うさぎへの優しさが滲み出ています。
感想
うさぎときつねという、本来なら敵同士のふたりが、奇妙な絆で結ばれるお話です。
個人的には、夜になって、ふたりが心のうちを打ち明ける場面が好きです。
まるで、本当の友達同士が、寝る前に何時間もお喋りするような感覚で、とても面白いです。
最初は悪者のようなきつねも、最後まで読むと、どこか悪者になりきれない、心優しい動物だということがわかります。
テンポ良く読めて、読み終わった後には、心が優しくなるような絵本です。