『桃子』を読みました。
あらすじ
両親を交通事故で亡くした桃子は、引き取り手の伯母夫婦が海外から帰国するまでの間、山寺に預けられることになります。
桃子は、そこで青年僧の天隆と出会います。
無口で笑わない桃子が、天隆の前ではよく笑うようになります。
ふたりはいつしか惹かれ合うようになります。
しかし、ふたりの交流は、やがて思いがけない結末へと向かい……。
桃子と修行僧の天隆の恋物語が描かれた絵本です。
見どころ
この絵本の見どころは、人を愛する気持ちです。
山寺に預けられた桃子は、そこで修行僧の天隆と出会います。
桃子と天隆は、次第に惹かれあいます。
そんなある日、天隆と桃子が和尚さんの部屋にふたりしてやってきます。
天隆は、山を降り、仕事を見つけて桃子と暮らしたいと言います。
しかし、桃子と天隆は、12歳も歳の差があります。それに、桃子は大事な預かりものです。
案の定、和尚さんは反対します。
その後、寺に再び穏やかな日々が訪れます。
天隆は受所係の修行僧に戻り、桃子もおとなしく過ごします。
そして、ついに桃子が伯母夫婦に引き取られ、山を降りる日がきます。
桃子がいざタクシーに乗ろうとした時に、驚くべき事態が起こります。
なんと、桃子はくちばしの赤い、きゃしゃな白い小鳥になり、飛び去ってしまいます。
そして、なんと一方の天隆の頭には、青い花が咲き、すくすくと成長します。
その半年後、白い小鳥が戻ってきて、天隆の頭の上に住み着きます。
物語の最後は、和尚さんの言葉で締めくくられます。
なんとも不思議なお話ですが、孤独なふたりが織りなす純愛が美しい絵本です。
この絵本から、人を愛する気持ちがひしひしと伝わってきます。
桃子と天隆のふたりは惹かれあいますが、お互いに好きになってはいけない相手です。
ふたりの恋が成就することは、極めて難しい状況です。
しかし、ふたりのお互いを想う気持ちは止められません。
最後は、ふたりは姿を変えて、一緒になります。
ふたりの強い想いが伝わる絵本です。
印象的な言葉
人を恋するということはえらいことですわなぁ。
最後に、和尚さんが言う言葉です。
本当にその通りだという言葉ですね。
感想
この絵本は、江國香織さんの「つめたいよるに」に収載された短編を絵本にしたものです。
子供向きというよりは、大人にじっくり味わって読んでほしい1冊です。
予想外の結末に驚きましたが、桃子と天隆の純愛は読後に深い余韻を残します。
ここまで、人を愛することは、人の一生でなかなかないのではないでしょうか。
それほどまでに、人を強く想う気持ちが描かれています。
それにしても、桃子の魅力はすごいものですね。
7歳にして、19歳の修行僧を虜にするその色気は、すさまじいものだったことでしょう。
その魅力は、和尚さんにまで「一種色っぽい感じがしたものです」と言わしめたほどです。
さぞかし美少女だったのでしょう。
桃子と天隆の禁断の愛が描かれた作品ですが、ふたりの想いはピュアなもので、ドロドロした様子はなく、むしろ読後さわやかな心地さえしました。
桃子と天隆の想いが、強く心を打つ絵本です。