死ぬまでに読みたい絵本

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満月をまって

『満月をまって』を読みました。

 

満月をまって

満月をまって

 

 

あらすじ

 

今から100年以上前、アメリカのニューヨーク州ハドソンからそれほど遠くないコロンビア郡の山間で、かごを作って生活している人々がいました。

 

そこに住む主人公のぼくのお父さんは、満月の日にハドソンへかごを売りに行きます。

 

じょうぶで美しいかごは、伝統的な技法で作られています。

 

ぼくは、お父さんの仕事をよく見ていたおかげで、少しは手伝えるようになりました。

 

そして、9歳になった満月の日、ようやくお父さんはぼくをハドソンへ連れて行ってくれることになりますが……。

 

かご作り職人の静かな情熱や誇りが描かれた絵本です。

 

ポイント

 

今回のポイントは、かご作り職人の誇りや情熱です。

 

9歳になった満月の日、お父さんに連れられて、ぼくは初めてハドソンに行きます。

 

ぼくは、お父さんと一緒に金物店や食料品店へ行き、初めてのものに囲まれて、目がはなせなくなります。

 

帰り道、ぼくがお母さんにどんな土産話をしようか考えているところに、心無い言葉を浴びせかける男性が現れます。

 

男性は、お父さんとぼくに向かって、大声で罵声を浴びせます。

 

その内容は、お父さんが作っているかごやかご作り職人に対する悪口です。

 

お父さんは、「しらんぷりしていろ」と言ます。前にも何度か言われたことがあるのでしょう。

 

しかし、ぼくがこんなことを言われたのは初めてのことだったと思います。

 

そのため、この出来事はぼくにとってインパクトの大きなものとなり、暗い影を落とします。

 

その後、ぼくはかご作りを見に行くことができなくなってしまいます。

 

そして、何週間かたったある日、ぼくは納屋にしまってあるかごを蹴飛ばしてしまいます。

 

そこに、お父さんの仕事仲間のビッグ・ジョーがやってきて、ぼくに向かってこう言います。

 

「風からまなんだことばを、音にしてうたいあげる人がいる。詩をつくる人もいる。風は、おれたちには、かごをつくることをおしえてくれたんだ」

 

さらにこう続けます。

 

「風はみている。だれを信用できるか、ちゃんとしっているんだ」

 

これを聞いたぼくは、ハドソンで言われたことを気にしないようになり、お父さんたちのように、「風がえらんでくれた人」になりたいと願うようになります。

 

ビッグ・ジョーの含蓄ある言葉で、見事ぼくは嫌な出来事を乗り越え、改めてかご作り職人への道を志すようになります。

 

このことから、かご作り職人たちの、かご作りに対する静かな情熱や誇りを感じることができます。

 

人からどう言われようと気にせず、自分たちが信じたものを作り続けること。

 

これは、なかなか簡単にできることではありません。

 

まさに、かご作り職人たちのプライドのなせるわざですね。

 

印象的な言葉

 

きく耳があれば、きこえるよ

 

ビッグ・ジョーのぼくに対する言葉です。

 

仕事場で、お父さんたちが山の木がしてくれた話をしています。

 

ぼくも、山の木の声を聞きたいと思いますが、ぼくには聞えません。

 

そこで、ビッグ・ジョーがぼくに対して発した言葉です。

 

この時のぼくには、まだビッグ・ジョーが何を言いたいのかわかりません。

 

しかし、物語の最後の方で、ぼくはついに風の声が聞こえるようになります。

 

そこで、ようやくぼくはビッグ・ジョーの言葉を理解することになります。

 

この言葉は、シンプルながらも、深い言葉だと思います。

 

もしかしたら、聞えないのではなく、聞いていなかっただけなのかもしれませんね。

 

辛い経験を乗り越えたからこそ、わかる言葉だと思います。

 

作者の紹介

 

本書の作者は、作家であり環境保護活動家のメアリー・リン・レイです。

 

本書のイラストを手がけたのは、バーバラ・クーニーです。

 

1959年に『チャンティクリアときつね』、1980年に『にぐるまひいて』でカルデコット賞を、1982年に『ルピナスさん』で全米図書賞を受賞しています。

 

2000年、死去。残念ながら、本書が最後の作品となりました。

 

訳者は、掛川恭子です。

 

感想

 

2000年3月に亡くなった、絵本作家バーバラ・クーニーの最後の作品です。

 

この絵本の舞台は、100年以上前のアメリカですが、普遍的な物語になっていて、多くの日本人の心に響く作品となっています。

 

かご作り職人の美しい心や情熱が見事に描かれていて、読後に深い余韻を残します。

 

自分たちの職業や商品に誇りを持ち、周りの声に振り回されず、作り続けること。

 

これは職人だけでなく、様々な職業人が見習うべき姿だと思います。

 

本書では、父から子へと受け継ぐ伝統が、美しい絵と感動的な物語によって表現されています。

 

残念ながら、絵本に出てくるかごを最後まで作り続けていたひとりの女性も、1996年に亡くなってしまったそうです。

 

しかし、美しくてじょうぶなかごは残り続けます。

 

博物館や個人の納屋、アメリカの民芸品コレクションの中に、今でもかごは多く残っているそうです。

 

これを読んで、古くから伝わる伝統を守りたいと思う若い読者が増えるといいなと思います。

 

 

満月をまって

満月をまって